標本分散をn倍して分散で割ると、自由度n-1のカイ2乗分布にしたがう

投稿者: | 2017年7月15日

「標本分散をn倍して分散で割ると、自由度n-1のカイ2乗分布にしたがう」は、統計学の定理の中で重要なもののひとつで、色々な証明方法があるが、直感的で平易なものを選んでみた。

$X_1,\cdots,X_n\sim N(\mu,\sigma^2)$が独立のとき、$n\geq 1$, $\displaystyle \bar{X}=\frac{1}{n}\sum_{i=1}^n X_i$, $\displaystyle S^2:=\frac{1}{n}\sum_{i=1}^n(X_i-\bar{X})^2$として、$$\displaystyle\frac{nS^2}{\sigma^2}\sim \chi^2_{n-1}$$ただし、$\chi^2_0$(自由度0のカイ2乗分布)は、常に定数0になる分布をあらわすものとする。

証明: 一般性を失うことなく、$\mu=0$を仮定する。まず、$X_1,\cdots,X_n$が独立なので$$E[\bar{X}(X_j-\bar X{})]=E[X_j\cdot \frac{1}{n}\sum_{i=1}^nX_i]-E[(\frac{1}{n}\sum_{i=1}^nX_i)^2]=\frac{\sigma^2}{n}-\frac{\sigma^2}{n}=0$$が成立する。また、$\bar{X}$と$X_j-\bar{X}$はともに正規分布にしたがうので、独立である。さらに、$nS^2=\sum_{i=1}^n(X_i-\bar{X})^2$は$X_1-\bar{X},\cdots,X_n-\bar{X}$の関数であり、$\bar{X}$と独立である。

以下では、これまでの$\bar{X}$および$S^2$を$\bar{X}_n$および$S^2_n$とかき、数学的帰納法によって、命題の証明をすすめる。まず、$S_1^2=0$より、$n=1$では、命題は正しい。そして、\begin{eqnarray*}
(n+1)S_{n+1}^2-nS_n^2
&=&(\sum_{i=1}^{n+1}X_i^2-(n+1)\bar{X}_{n+1}^2)-(\sum_{i=1}^{n}X_i^2-n\bar{X}_{n}^2)\\
&=&n\bar{X}_{n}^2+X_{n+1}^2-(n+1)\bar{X}_{n+1}^2\\
&=&n\bar{X}_{n}^2+X_{n+1}^2-(n+1)\{\frac{n}{n+1}\bar{X}_n+\frac{1}{n+1}X_{n+1}\}^2\\
&=&\frac{n}{n+1}(\bar{X}_n-X_{n+1})^2
\end{eqnarray*}$\displaystyle \bar{X}_n-X_{n+1}\sim N(0,\frac{n+1}{n})$より、$\displaystyle \frac{(n+1)S_{n+1}^2}{\sigma^2}-\frac{nS_n^2}{\sigma^2}\sim \chi^2_1$とできる。$S_n^2$,と$(\bar{X}_n-X_{n+1})^2$が独立であるので、$\displaystyle\frac{nS_n}{\sigma^2}\sim\chi^2_{n-1}$であれば、$\displaystyle\frac{(n+1)S_{n+1}}{\sigma^2}\sim \chi_n^2$が成立する。