べき等行列の固有空間

投稿者: | 2017年6月6日

べき等行列の固有値が1と0であるというのは、ネットで見てものっていますが、その行列の階数がrであれば、次数がrとn-rの固有空間にわかれるということは、論じられていないようです(書籍などでは普通に書かれていますが)。数学科の大学院修士の入試問題だと、ちょっとやさしすぎるかもしれません。うちのゼミの学生がてこづっていたので、やってみました。行列$A$の対称性を仮定している証明が多いですが、一般のべき等行列でも証明できます。

定理:  階数$r$の $n\times n$行列$A$は、$A^2=A$であるとき、固有値1の次元$r$の固有空間と、固有値0の次元$n-r$の固有空間にわかれる。

証明:  一般に、行列$A$の像の次元(階数)と核($Ax=O$なるベクトル$x$のなすベクトル空間)の次元の和は$A$の列数になる。したがって、$A$の固有値$0$の固有空間$V_0$の次元は$n-r$となる。また、 $(A-I)A=O$より、$A-I$の右から$A$の各列をかけると$0$になり、$A$の階数が$r$であるので、$A-I$の固有値$0$の固有空間の次元、すなわち$A$の固有値1の固有空間$V_1$の次元は、少なくとも$r$だけある。しかし、$A$の固有空間の次元の合計は$n$を越えることはないので、$V_1$の次元は$r$になる。