10月19日(月)-21(水)に開催されたIBIS(情報論的学習理論ワークショップ)2009に参加し、成果発表を行った。IBISは、1998年に山西健司氏(現東京大学)と竹内純一(現九州大学)のよびかけではじまった機械学習に関するワークショップである。今回で12回目を数える。私自身は1998年の第1回で講演し、電子通信学会の2種研究会になってからは専門委員長として、コミュニティをまとめたこともある(2005-2007)。2000年と2006年に実行委員長として開催を担当し、私としては十分にやったということと、マンネリを防ぐ(若い人が中心にやってもよい)という意味もあり、2009年5月からは専門委員としての役務を退任している。非常に思いいれのある研究会であり、もちろん研究の結果では今でも誰にも負けないつもりでいる。今年(IBIS2009) は、九州大学の竹内純一先生のご尽力で、九州大学医学部百年講堂で開催された。プログラムの企画や、参加者への細かい配慮など非常にすばらしかった。東京工業大学の杉山先生をはじめ、若いプログラム委員の方々が夢中になって取り組まれ、従来の問題を改善して実を結んだものと思われる。
10月18日(日)の前日の夜に会場から2駅の中洲川端という駅から近い宿舎に到着した。会場は、馬出九大病院前が最寄駅だが、博多や天神では乗換えが必要である。中州はその分岐であって、乗り換え無で3駅のところにある。到着してから、屋台(写真)でビール小瓶とラーメン(600円)を頼んだ。勘定が1400円といわれ、おかしいとは思った。しかし、屋台とはそんなものかと思い、部屋に帰って、翌日のプログラムや他の発表の予稿などに目を通した。
最近のIBISは、企画セッション(招待ベース)と一般投稿(ポスター発表、写真)からなっている。今回は、「金融リスクと統計的学習」「音声・音響処理と機械学習」「化学構造とその数理」「疎グラフ上のダイナミクス」「ランキング学習の最前線」「パターン認識の新潮流」「広がる機械学習応用のフロンティア」という盛りだくさんの内容だった。どれも例外なく面白かった。
ランキング学習の講演をされた李氏は、私も昔から面識がある。山西、竹内、安倍(現IBMワトソン研究所)といったNECのデータマイニングの黄金期を築き上げたメンバーの一人で、よく私の昔の結果を引用していただいた。中国にもどってマイクロソフトの研究所に勤務して活躍されているという話は聞いたことがある。ただ、日本にいたときより、若干スマートになり、顔のつやもよい。国際的に活躍されているという。講演もわかりやすく構成されていた。
もう一人気になったのは、パターン認識の石川博(名古屋市立大)氏の講演である。MDL基準、Kolomogorovコンプレキシティなどの類は私もよく知っているつもりである。系列の複雑さを評価したい。定常エルゴード過程を前提にすれば、ファイル圧縮の(Ziv-Lempelアルゴリズム)の圧縮されたバイト数などが複雑さになる。ただ何も仮定しないKolmogorovやChaitinになると、そのような評価自体、計算可能ではない(計算済みか否かの判定ができない)。石川氏の発表は、図形などのパターンの複雑さを評価したいという問題設定であった。そういう着眼点に到達することは自然なことではあるが、研究の結果として独自の理論として堂々と発表するところなどなかなかできるものではない。また、そのためにありとあらゆる文献を調査し、抜けも無い。
今回の私の発表は、「Hannan-Quinn の命題は、線形回帰でも、ガウス型Baysian ネットワークの構造推定でも正しい 」というタイトルのポスターの発表(写真)で、情報量基準で線形回帰問題でもHannan-Quinnが適用できるという証明が完成したという報告を行った。最近は、IBISでも、数値例で有効性を確認するだけの発表が非常に多い。ただ、それでよしとするのであれば、自分の主張に都合の良い例を作るだけでいくらでも論文になってしまう。私の発表は、萩原氏(三重大)、黒木氏(阪大)、二宮氏(九大)らと真剣に議論し、コメントをいただいた。実のある議論ができたと思う。議論の結論を単刀直入に言えば、「証明は正しいが、難しくはなく、過去にやられていないことが疑問」ということであった。Rao-Wu(1989)の論文では、同じ条件のもとで、重複対数の法則を使わずにもっと弱い結果が導出されている。現在は、従来研究として参照した論文の著者(Rao-Wu)に意見を聞いている。私自身は、いずれにせよ、あるがままの結論が出てくれば、自分の成果になろうがなるまいが、納得するというスタンスでいる。
今回も、M2の石田君が発表している(「Chow-Liuアルゴリズムの一般化と、木の複雑さを考慮した修正版について」)。懇親会(写真)は、ホテルの食事なのでおいしかったが、量が若干少なかった。逆に普通の学食とかだと、量が多いがおいしくないとか、文句が来るので、会場担当者は大変である。ただ、こちらも盛況であった。懇親会が終わってから、発表が終わった石田君と、呉服町(会場と宿舎の間)の人気のあるモツ鍋屋にいってさらに祝杯をあげた。